発酵のお話 TIPS

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漬物と調味料

雑学


【塩】

家庭用の塩には、「食塩」「精製塩」「食卓塩」がある。このうち漬け物に使えるのは食塩で、精製塩や食卓塩ではよい漬け物は作れない。精製塩や食卓塩には、防湿材として、水に溶けない炭酸マグネシウムが使われているからである。
漬け物に一番よいのは、ニガリ分を少し含み、しっとりとした塩である。1960年代ごろまでは、粗塩という名で売られていたが、1970年代ごろから塩の製法が変わり、ほとんど純粋の塩化ナトリウムに近い塩になった。ニガリを含んだ塩が漬け物に適しているのは、ニガリのもつほろ苦さが味に深みをだすからである。また、ニガリに含まれる塩化マグネシウムは、野菜の細胞組織と結合し、コリコリしたよい口当たりをだすことが多い。
一般には「食塩」で漬け物を漬けることになるが、漬け物専用食塩として「つけもの塩」と称する塩も市販されている。これは漬け物の歯ざわりをよくするため、塩化マグネシウム・塩化カリウム・リンゴ酸・クエン酸などを添加した塩である。また、自然塩、天然塩と称する塩の中にニガリを添加したものも一部にある。

【ぬか】

ぬか漬けおよびぬかみそ床に副材料として用いられるのがぬかである。玄米を精白するときに出る副産物である。米穀店で入手することができるほか、パックされたものも市販されている。ぬかの使用で注意が必要なのは、製造後新しいものを使用することである。ぬかの中には多量の油が含まれている。この油は非常に酸化しやすい。ぬか中の油の酸化が進むと、特有の悪臭が出る。
また、米ぬか中にはビタミンB1が含まれるが、時間の経過とともに分解し、ぬか変敗の独特のにおいが出る。これもぬか漬けの風味を悪くする。以上の理由から新鮮なぬかを入手し、なるべく早く用いることが大切である。ぬかにはごみや石などの入っている場合もあるから、夾雑物をとり除いて使用する。
ぬか床を作る場合、ぬかを炒って用いることもある。ぬかを炒ると、その中に含まれている油脂分が加熱され、よい香りがでてくる。また、脂肪分解酵素は、加熱によって破壊され、油の変化が起こりにくくぬかみそ床のにおいが悪くなりにくい。さらに、ぬかの中にはアミノ酸や糖類も含まれている。ぬかを軽く炒ることによって香ばしいよい香りの成分ができる。これもぬか漬けの味をよくする効果がある。しかし、加熱により熟成に必要な酵素の活性も失われるので、ぬかは軽く炒るか、またはぬかの一部を炒って混ぜた方がよい。
新鮮なぬかを用いて作ったぬか床の中には、ビタミンB1が相当量に存在し、これが床に漬けた材料に移行し、ビタミンB1が増加する。しかし、古くなったぬかや、ぬか床にはこの効果はない。
ぬかが、古いか新しいかは、色・ツヤ・においでわかる。新しいぬかは明るい色をし、油じみた感じがない。ぬかが古くなるにしたがって、色は褐色が濃くなる。またぬかの表面に油がにじみ出て、油じみた感じとなる。ぬかのにおいをかいでみたときに、古いものは油の酸化臭がする。
新しいぬかを入手するには、精米を行っている米穀店で、そこでできたぬかを直接分けてもらうのがよい。炒ったぬかに化学調味料・食塩・香辛料・鉄分などを配合したぬか漬けのもとなども販売されている。

【コウジ(麹・糀)】

米・大麦・大豆などにコウジ菌を繁殖させたものをコウジという。ふつう漬け物に用いるのは、米コウジである。コウジの歴史は古く、日本でも古代から使用されてきたようである。コウジの中には多量のデンプン糖化酵素や、タンパク質分解酵素などが含まれている。米コウジを副材料として漬け物に用いると、コウジ中の酵素が、コウジの材料である米のデンプンを糖化し、甘味を出すとともに、風味をよくする。したがって、コウジを利用した漬け物は大へん多い。また、ぬか漬けなどにコウジを利用すると、早く漬け物を完成させることができる。
米コウジはふつう、コウジ室で作ったものを乾燥し、保存している。乾燥コウジは、その中にコウジ菌および酵素を十分に含んでいて、その有効性は半年くらいもつ。
米コウジを選ぶときは、一握り手にとり堅く握ってみる。水分があまり多いものは、そのときにしっとりとした感じがする。このようなものは酵素の力が落ちているので、さけた方がよい。握ってもパラリとくずれ、よく乾燥しているのがわかるようなものを選ぶ。次に両手にコウジをすくい、鼻を近づけてにおいをかいでみる。甘くのどの奥深く吸い込めるような香りを持ったものがよいコウジである。カビくさかったり、一部に青カビや黒カビなどが生えているものは用いない方がよい。カビをもったコウジで漬け物を作ると、漬け物中にカビが繁殖し、せっかくの漬け物が台なしになってしまう。

【酒粕】

清酒のもろみをしぼり清酒をとった粕が酒粕である。酒粕の中には8%程度のアルコール、18%程度の糖質、および15%程度のタンパク質が含まれている。また清酒酵母が酒粕の中に入っているので、強力な酵素作用もある。
最近の酒粕は以前の酒粕とちがい、水圧プレスで強力な力をかけてしぼるので、アルコール分や旨味分は比較的少ない。あまり強くしぼってないものの方が風味のよい漬け粕ができる。しかし、十分しぼったものでも酒粕の中の酵母の酵素によってこれを熟成させた漬け粕では、旨味が出てくる。
酒粕は、板粕はなるべく新鮮なしぼりたてのものを選ぶ。表面がよく湿っていて、全体の水分が均一なものがよい。表面が乾いたり、表面に水分がじとじと出ているようなものは品質のよくない粕である。またにおいをかいでみて、清酒のよい香りが鼻の奥深く吸い込めるようなものがよい。カビのついているようなものは、それを用いると、漬け物が腐敗しやすい。
熟成粕は、板粕をタンクの中に漬け込み、数か月ないし一年おいて自己消化を起こさせたものである。自己消化とは、その中に含まれている酵素によって自然に自体の成分を分解することをいう。熟成粕では自己消化によりアミノ酸や糖分が多量に生産される。このためよい味とともに、風味も板粕とちがったよいものが醸し出される。これに各種調味をし、その中に材料を漬け込む。この場合も、粕の味のよさが漬け物そのものの味に影響するので、よい粕を選ぶことが大切である。

【みりん粕】

みりんを醸造した際にしぼった残りの粕である。酒粕はふつうウルチ米が材料であるのに対し、みりん粕はモチ米が材料で、少しその性質がちがう。またみりんには糖分が大へん多いので、みりん粕は甘味が強い。形は酒粕のように板状でなく、ころころとしているので、別名こぼれ梅とも呼ばれる。みりん粕はそのまま用いたり、あるいは漬け込んで熟成させ、自己消化した後に用いることもある。酒粕と同様に、香りのよい、カビなどのついていないよいものを選ぶことが大切である。